十二指腸癌・肺転移 69歳 男性

CP000844  平成20年5月69歳のAさんは食べると吐くの繰り返しで、さすがにこれは変だと病院を受診したことから物語ははじまります。

実はこのAさんはNPO仲間の薬剤師の奥さんの父親でした。
それで真っ先に私に相談が舞い込んできたのでした。
先ずは主治医から赤尾先生宛に診療情報提供書を送って貰うことを指示しました。
(患者の同意を得てコピーやCTのCDRが私の手元にも有ります)

CT検査、PET検査、胃部内視鏡、肺生検の結果で十二指腸に3cm大の腫瘍が見つかり、十二指腸が不完全閉塞であり、肺に複数個の転移性腫瘍(腺癌)も確認され十二指腸癌・肺転移と診断されましたが、膵頭部にも深く浸潤しているので膵臓が原発だったかも知れませんが、治療方針に変わりが無いので診断名に拘る必要性は乏しいです。
問題は遠隔転移があったことで、いきなりIV期(末期)癌と診断されてしまったことです。
IV期癌に根治手術の適応はありません。従ってAさんは治る見込みのない患者だと宣言されたのと同じでした。
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手術が出来ないなら化学療法(抗癌剤治療)を考えます。
抗癌剤を使うならゲムシタビン(ジエムザール)となりますが、せいぜい余命を2ヶ月延長するくらいの効果しか望めません。
それだったら、先ずは食事が出来るようにバイパス手術をして貰おうと考えましたが、検査した病院には消化器外科の医師は月に1回だけ大学病院から派遣されることが分かりました。
開業される前に赤尾先生は徳州会館山病院の院長でしたので、徳州会繋がりで近くの病院を当たって貰い、直ぐに転院となりました。

肺転移

肺転移

この場合のバイパス手術とは「 胆管空腸、胃空腸吻合術 」と言って胆汁を流すために胆管を空腸と接合し、更に空腸と胃を繋ぐ手術のことで、およそ2時間で終わります。素人目には原発巣である十二指腸や膵頭部を 取らなくて良いのか気になるところですが、その為には膵頭十二指腸切除術(PD)を行わなければなりませんが、手術時間も12時間~14時間も掛かり難易度も高く、患者に負担の多い手術ですからIV期の方にはあまり行われません。

仮に遠隔転移の有る患者に強引に膵頭十二指腸切除術を行ったとしても、原発巣が無くなると転移巣が急に暴れ出して大きくなる、もしくは新たな転移巣が出現することもあり延命目的には反してしまいます。

Aさんは無事にバイパス手術が出来ました。
その執刀医から赤尾先生に「膵臓の中の腫瘍の方が大きかった、あれは膵臓癌でしょうね」と知らせがありました。

術後1週間程度で食事が出来るようになったAさんは上機嫌でした。やはり食べられることは精神的にも好影響があるようです。

しかし、主治医も抗癌剤の副作用が軽いことや延命期間が延びることを説明しましたが、
Aさんは医師から薦められた抗癌剤治療を「俺は送ってきて貰ったサプリを呑むから抗癌剤はしない」と頑なに拒否しました。

暫くして退院したAさんは検査の為だけに病院に行くだけでした。
それから半年が過ぎた頃、本来なら痛みや衰弱が有るはずのAさんがあまりにも元気なのでCTを撮ることになったそうです。
すると、有るはずの癌が無くなっていたと言われたそうです。
表現が曖昧なのは、その時点のCTを見ていないからです。

それから2年間、何事も無く過ごされていたAさんでしたが、相談者の仲間から亡くなったと連絡がありました。その時に「癌の再発とかではありませんが理由がよく分からないんですよ。ただ、息子が不祥事を起こしたのを知って死にたいと言っていたようですが・・」とだけ聞かされました。

少なくとも、末期癌と診断されたAさんが2年間無治療でいても何も症状が出ずにいたことは事実なのですが、本当に癌が消えたのか未だに謎です。

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