乳癌再発骨転移骨折
【患者PF 】:73 歳女性
【背景】
骨は乳がんの再発部位としては多い箇所です。骨に関しては原発の骨髄腫瘍を除き再発として発見されることが多いです。自覚症状としては痛みが殆どです。
骨はCa の貯蔵と放出を司っていますが、癌細胞の侵入で骨中のマクロファージである破骨細胞が異常に破骨を繰り広げることで骨折に進展します。また、逆に加骨進展する場合も僅かにはあります。
【治療】
治療の目標は痛みの除去と骨折の予防であり、痛みにはオピオイド剤の投与、骨折の予防に放射線やビスフォス剤が使用されますが、骨転移への根治的な治療は存在し得ません。
2006 年に骨転移の治療にゾメタが初めて認可されたことは画期的なことではありましたが、SRE (骨関連事象:病的骨折、骨病変に対する放射線治療、骨病変に対する外科的手術、脊髄圧迫)はプラセボに対して70日の延長、発現率はプラセボの50 %に対して30 %にしか過ぎません。この数字は過去の薬剤に対しては優位なものではありますが、画期的であっても、魔法の薬では在り得ません。
【使用体験】
患者は11 年前に乳がんの手術を受け、その後9 年間のホルモン治療(タモキシフェン)を行っていましたが、9 年の時点で再発の危険性が低いという医師の判断によりホルモン療法は中止となりました。
その2 年後に腰痛と骨盤痛が起きて、骨シンチグラフィーにより全身への骨転移が確認されました。転移部位は頭蓋、頚椎、鎖骨、上腕骨、胸骨、肋骨、腰椎、腸骨、仙骨、大腿骨であり、シンチでの集積は骨盤と腰椎に集中していました。
ゾメタと放射線療法は即開始されましたが、50 回の放射線治療が終わって2 ヶ月程経った頃はデユロテップパッチの効果もあり除痛コントロールは上手く行くようになりました。
定期健診の折に介護タクシーを依頼してありましたが、その日はワゴン車しかなく、その助手席に乗る為にドアの上のハンドルに手を掛けて体を車へ移動させようとした時に上腕のねじれで、右上腕部骨折となってしまい、そのまま入院になりました。
入院中は除痛コントロールが良く、BRMstage βが始めて規定量の使用が出来るようになったというのは皮肉なものです。
骨転移の骨折は単純骨折では無く、ギブスでの固定では無理であり金具で折れた骨を固定するしか方法はありません。入院の日から数えて21 日目に手術が行われる事になりました。
病室で予備麻酔を施され手術室に運ばれました。
しかし、手術前に撮ったレントゲンフィルムを見た執刀医は、その異変に気付きました。
「あっ、付いちゃってる。」なんと、骨折が治っているではありませんか。
そのまま手術室で予備麻酔が覚めるのを待ってから病室に戻され、翌日退院させられました。
さらに患者には肺転移(胸膜転移)もありましたが、それも少しずつ小さくなって行きました。
真夏の暑い中も筋肉を落とさないように散歩されていましたが、秋の深まる頃に脳梗塞を発症され、それが原因で死去されました。
謹んでご冥福をお祈り致します。
使用薬剤:フェアストン、デュロテップパッチ、ゾメタ