免疫はバランスが大切

免疫を高める

頻繁に風邪を引く人に「免疫を高めないと駄目だよ」などと日常会話でも「免疫を高める」という言葉は使うことがあるでしょう。

ところで「免疫を高める」とは何を指すのでしょうか?

と捻くれ者の私は考えてしまいます。
免疫の主体は白血球ですが、これを無闇に高めると弊害がおきてしまいます。常時白血球数が3000/μ L を切っている場合は引き上げた方が感染症のリスクは減りますが、それ以外に白血球数を上げる必要性は乏しいです。だいいち、白血球数が増えたからって体の変化なんて感じないはずです。喫煙者の場合は非喫煙者の比べて高い傾向にありますが、喫煙者の方が体調が良いと聞いたことはありませんから、免疫が高い=白血球数が多いは当てはまりません。
それだったら「リンパ球が多い方が良いのでしょうか?」。たしかにリンパ球が少ないよりは多い方が良いのですが、リンパ球を構成するT 細胞とB 細胞の比率がどうなのか(T/B 比率)まで採血検査で出してくれることは一般検診ではありません。
結論を言えば、「免疫は高めるものでも、下げるものでも無く、正常応答するバランスが大事だ」

なのです。
「正常応答するバランス」と言われても何のこっちや?ですよね。
例えば高齢者にしばしばみられる「無熱性肺炎」、これは病名では無く病態なんですが、肺炎になっても発熱しませんけど、息苦しいとか怠い以外に僅かに咳が出る場合もあります。(他には青年期に多いクラミジア肺炎等では発熱しないことはあります)
この時、白血球数が増えているかというと少しは増えていても正常範囲内の方も居られます。発熱は生体が感染症になったり、組織が壊れたときに知らせる自覚症状としては大事なものなのですが、どうして熱が出ないのでしょうか?
それは免疫が正常に感染症に対して応答していないからです。
免疫の情報伝達は電話やFAX、手紙、メールはありませんから、サイトカインというホルモンの様な物質を出すことで情報を伝えます。このサイトカインが正常に作られない場合やもっと酷い場合には菌やウイルスが侵入してきても「無かったこと」にしてしまう無反応の場合もあります。
発熱にはインターロイキン1と呼ばれるサイトカインがたくさん分泌されると筋肉を収縮させて熱を出させるのですが、情報が伝わっていないので熱が出ないのです。
普段から低体温の方は風邪を引きやすく、また治りにくいのもこのインターロイキン1が正常に出ていないからです。
高齢者で普段から低体温の方は食事の中にシイタケを多く使う料理を食べることです。
異常なくらい多く食べるのではなく、味噌汁や豚汁などに毎日加えるだけで十分です。
高額なアガリクスや○○タケなんて要りません。柔らかいキノコにはどれもベータグルカンは含まれていますから、安いシイタケで十分だと思います。
朝の体温(起床時の動いていない)が36 ℃を切っている高齢者の方は風邪を引きやすいですので、是非お試しになってください。

シイタケ

なぜ、シイタケのベータグルカンが体温を上げるようになるのでしょう。
それは、ベータグルカンがカビ(真菌)の特徴だからです。毎日のように「カビが入ってるよ」と嘘の情報を入れているとサボタージュしていた免疫が反応するようになるからです。
この状態は液性(獲得)免疫の亢進ですから、白血球の中でも好中球が増えて白血球数を引き上げます。但し、1 ヶ月を超え長続きして体温を維持するかは不明です。
また、若い方の低体温には効果はみられない場合が多いと思います。さらに付け加えれば、低体温の高齢者で白血球数が少ない担癌状態の方は1 ヶ月で中断してください。担癌状態自体が液性免疫の亢進状態であるから悪化する可能性は否定できません。


良いか悪いかは別として、人為的に免疫に応答させる物質(この場合はキノコのβグルカンです)を生物学的応答調節物質(biological response modifier) これを略して「BRM」と呼びます。
医薬品では椎茸から抽出した注射剤の「レンチナン」、溶連菌をペニシリンで不活化した注射剤の「ピシバニール」、カワラタケから抽出した内服の「クレスチン」等がありますが、ピシバニールを除いては単独で使用することはありません。また、放射線療法による白血球減少症の効能で医薬品として承認されている「アンサー20」は丸山ワクチンと同じの結核菌死滅エキスで、丸山ワクチンは期限付きの有償治験薬として使用されていますが、これも生物学的応答調節物質(biological response modifier)製剤です。


1977 年~ 1985 年頃に医薬品として発売され、総売り上げが1000 億円を超えるほど脚光を浴びたこれらのBRM 製剤が抗癌剤の副作用である白血球減少を緩和する程度に評価は下がり、売上高も数億円と下がったのはなぜでしょうか?

おそらく腫瘍免疫学を学ぶ者はこう答えるに違いない「液性免疫を亢進しても細胞性免疫が上がらないことには無理でしょう」


いずれにせよ、BRM 製剤は白血球の中の単球由来の樹状細胞を騙すことです。

樹状細胞に取り込まれて、その時の体の状態で細胞性免疫にシフトさせたり液性免疫にシフトさせたり、または亢進しすぎている免疫応答を抑えるように働かせることが出来れば優秀なBRM 製剤になるでしょう。
しかし、液性免疫を亢進させる物質は数々ありますが、細胞性免疫を亢進させる物質はあまり多くは無いのが実情です。

理論的には、このバランスを上手にできたなら、抗腫瘍免疫、自己免疫、感染症免疫のどれをも1 つで調整することが可能になるはずです。


実は恥ずかしい話ですが、θ開発中に液性免疫をかなり下げたものを自身で呑んでいた時にインフルエンザに罹ってしまい一晩高熱で苦しんだことがあります。翌日に別な処方のものに切り替えリレンザ併用で平熱に戻るのに1 日遅れました。

未だに誰にでも合う最適なバランスを探すのが苦労の種です。