ビタミンC の研究
様々な臨床研究には大きなミスや妨害的な臨床研究もあり、研究成果は真逆のこともしばしばあります。かつてベータカロテンが癌予防に効果的だと発表された後に否定されたことがあります。どちらも大規模な疫学調査でしたが、詳細を見ることが出来ないのではっきりした答えはでませんが、
ビタミンC は天然抽出と合性物は全く同じですが、ベータカロテンでは天然物抽出のものと合性物には骨格に違いがあります。
もしかすると、効果ありが天然物抽出で、効果無しが合性物だった可能性は否定できません。
同じようにビタミンE も天然物と合成物があります。厳密に言えばビタミンEは同族体を含め8 種類もありますから、天然物と称しても同じものとは限りません。特に疫学研究の場合は同じデザインでされたものかは重要な要素になります。
また、マスコミは常識を覆すようなsensational な話題は好きですが、詳細はどうでも良いのでしょう。
ポーリングが英国の外科医ユアン・キャメロンと行った臨床研究は末期癌患者に最初は点滴のビタミンC、その後は経口投与で無投与群と投与群で余命が4 倍強の差が出たものでした。
しかし、メイヨー・クリニックで行った3 回の同様の臨床試験は効果無しと判定されましたが、同じデザインの試験ではありませんでした。
どちらが正しかったかはさておき、この種の試験では患者背景( 癌の種類やstatusperformance)が異なる為に人為的に結果を導くことは簡単なことです。
そして、現代においてはこの様な臨床試験は延命できる化学療法のエビデンスがある癌種には人道的な観点から実施することすら不可能かもしれません。
また、癌患者の多くが血液中のビタミンC 濃度が少なくなっている研究が発表されました。それには反対意見も無いと思われますが、ビタミンC 血中濃度が低いから癌になったのか、癌だから下がるのかは不明ですので、ビタミンC の大量摂取が癌を予防するという結論は導かれません。
ビタミンC の研究だけではなく、ゲノムが解析されてもヒトの体の中で起きていることは分からないことだらけなんです。
立派な製薬会社が新薬を開発しても、その薬理作用は実験で得られたデータからの推測に過ぎません。「たぶんこうだろう」のレベルしか当初は分からないものが、副作用の積み重ねやその後の実験で薬理作用が少し分かることすらあります。そういう意味では100 %のエビデンス(証拠)なんて存在しないのかもしれません。
壊血病が食事の影響だと分かってから262 年、ビタミンC の欠乏だと判明してから83年経過しました。100 %のエビデンスが得られるのは何百年先の事なのでしょうか。
しかし、我が国の研究成果で素晴らしいものがあります。
それは東京都老人総合研究所老化ゲノムバイオマーカー研究チームが開発したSMP30 欠損マウスです。
普通のマウスは体内でビタミンC の合性が出来ますが、SMP30 欠損マウスはヒトのようなGLO(グロノ-γ-ラクトン酸化酵素)の欠如ではありませんがビタミンC の産生が出来ないマウスです。
このマウスにビタミンC を含まない食べ物を与えると壊血病を起こしますが、壊血病が起きない程度のビタミンC を含んだ食事を与え、もう一方には普通のマウスを比較対象とし、50 %生存率を比べました。正常なマウスが24 ヶ月(マウスの標準的な寿命です)だったのに対してビタミンC を合成出来ないSMP30 欠損マウスは1/4 の6 ヶ月でした。
単純にマウスとヒトを比べるわけには行きませんが、壊血病にならない程度のビタミンCは老化を早める可能性が示唆された研究成果だと思います。
また、同施設で初期の認知症患者にビタミンC を投与すると徘徊が減ったという発表もあります。もちろん、認知症が治ったということではありませんが、始めるが遅いとか早いとかは無いということです。
林先生ではありませんが、始めるなら『今でしょう!』は当てはまる可能性はあります。
私達日本人は結果をall or nothing で決めがちですが、「治らないなら意味ない!」と決めつけるものではありません。
ヒトは100 %死に向かって歩んでいます。また、その死が元の病とは限りません。いかに副作用が少なく老化や病気の進行を緩やかにするだけでも価値があると認識出来るようになることだと思います。
私ごとで強縮ですが、ビタミンC は30 年近く呑み続けています。
家族も同様に日に2000mg から始めて、20 年前からは3000mg を毎日欠かさずに呑み続けています。
そのせいか、風邪を引くことが滅多にありません。それでも不摂生で風邪を引いたときには1 回に2000mg のビタミンC を2~3時間おきに呑みます。おおよそ2 回目か3 回目には風邪症状は消えています。
或る時「血中濃度を考えた時には1000mg を1 時間おきの方が高くなるのではないか」と考えました。それで滅多に無い風邪の時に実験してみました。
ところが5 回呑んでも6回呑んでも症状に変化がありません。
仕方がないので2000mg を呑んだら暫くして症状が消えてしまったのです。
この1 回のケースで結論を導くのは危険ですが、もしかして、ビタミンC は血中濃度とは無関係に1 度に2000mg 呑んだときに効果が有るという域値なるものが存在するかもしれないと思うようになりました。
それでは1500mg だったらどうでしょうか?それも試してみたいのですが、生憎風邪は滅多に引かないので人体実験は未だ出来ずにいます。
或る意味で「ビタミンC オタク」なのかもしれません。
それほどにビタミンC は不思議な魅力があるのも事実です。